小学校教員8年、中学校教員10年、社会教育行政20年。
社会教育行政の中では公民館の活用だとか、地域ぐるみで子供を育てたりだとか、そんなことをしてきました。
そしてその傍ら、市民活動も22年続けており、「ネイチャーキッズ寺子屋」という活動で親子や子供たちの体験活動をつくってきました。
そのような活動の中で何が大事かというと、市民の一員として、力むのではなく、このまちをちょっと楽しくしたり、顔見知りが増えていったり。
「自立」って何だと思いますか?
昨年度の公開講座講師をしていた東京大学の牧野先生が言っていた言葉があり、心に残っている話がありました。
それは「たくさんのつながりがあり、周りに支えられているからこそ、安心して一人で立つ事ができる、それが自立ということだと思うんです」ということ。
なぜ益田市の中で活動していくときにいろんなものがうまくつながったり人の助けが得られるのかなと考えたときに、益田市はそういったソーシャルキャピタル(社会資本)があるからだ、ということに気づきました。
現在、NPO法人おむすびを立ち上げて1年目。
これまでの活動を生かして、いろんな人をつなげながら、中間支援としての活動をしたいと思い動き始めたところです。
みんなが安心して幸せに暮らせるまちをつくっていくためには、行政がいくら旗を振っても難しい。
いくらお金を注ぎ込んでもそれだけでは生み出せないものがある。
その時に活躍するのが、コーディネーター的人材です。
今回のなは市民協働大学院でも言及されているコーディネーター的人材とは、「地域の現状をしっかり把握し、地域に必要なプログラムをデザインし、その実現に必要な人材や組織をつなぐ(コーディネート)することで、地域課題を解決できる人材」。
そんな背景で宮城さんが僕を呼んでくれました。
益田市は、「人が育つまち」としてやっていっています。
益田市とは、20地区の集落で構成され、4万4000人。
人口が200人を切り、JAもなくなって公民館だけになったような地域もあるように、それぞれ地域の特性は様々です。
合計特出生率は全国6位です。
そんな状況を踏まえて、今何が問題なのか。
島根県益田市は「消滅可能性都市」になり、行政として動きが出てきました。
あれほど出生率が高いのに、なぜか。
大学がない為、高校生の9割が毎年市外転出し、しかもUターン割合を見ると3割という危機的状況でした。
大事なのは実際の子供たちの声。
アンケートを取りました。
その結果、益田市には「なにもない」と答えた割合が50%以上あった。
しかし子ども達に欲しいものを問うと、物や建物など都会的な物や資本主義的なものへの価値に染まっていました。
これは消費者マインド、与えられる、お金で買える。という価値観になっているなと感じました。
私たちの幸せに必要なのは、共につくる&分かち合うということ。
私は「つくる」を大切にした活動をしたいという思うがより強くなりました。
そして、42%の子ども達は「気軽に話をすることができる地域の大人はいない」と答えました。
ロールモデルの減少が加速しているという肌感覚が、数字としても明らかになってきたわけです。
地域に帰ってきてもらえるような種蒔きとして、ロールモデルと出会える場、ひとづくりの好循環を作ろうと思い立ちスタートしたのが「益田版カタリ場」です。
ライフキャリア教育で大事にしていること、それは「益田びととの対話を通して多様な価値観・生き方に触れる」ということです。
中学校で教員をした時、キャリア教育の一環である分野で成功している講師を呼んだ時、私は大いに感動したのですが、子供たちには響かなかったようです。
「わたしはこうやってがんばって、苦しんだけどよかった」と言っても、上から話される言葉は響かない。
一対一の対等な関係性として対話することで伝わる。
活動の中で大切にしていること、あえて言葉にしているのが、「対話はスキル!」ということです。
・笑顔で大きく頷く
・は・へ・ほ
・深掘り質問
子供でも大人でもそうやってコミュニケーションを取るようにしていて、そのための場の一つがカタリ場です。
カタリ場では、人生グラフを用いて対話をします。
その人の人生を、上がったり下がったりするグラフで表現して、その時々で何があったのかを対話する。
高校生と地域の大人をつなぐ場として始めましたが、企画に動かされた高校生が自分達でプロジェクトを作り、「高校生×中学生」「高校生×小学生」、そしてその取り組みに感動した中学生もまた自分達で「中学生×小学生」のカタリ場を企画してくれました。
この写真なんて、80歳超えた観光ボランティアの会長と中学生です。
「益田版カタリ場」の大事なことは、こうして出会った後です。
うちは公民館が地域の大人を紹介してくれるんですけど、その人たちがその後休みの日にお菓子やジュースを用意すると子供がくるんです。
さらにバーベキューなんかもして、そうすると、子供たちが徐々に心を開き、自分達のやりたいことを言葉にしてくれるようになるんです。
それまでの子供たちは、話した夢、やりたいことを否定し続けられてきました。
そうすると、何かを「やりたい」と言おうとしても「否定されるかもしれない」となると言えなくなってくるんです。
でも、カタリ場を経て、対話ができるようになった大人たちは、話を聞けるようになります。
安心して話してもらえるようになるには、時間がかかります。
この時間を惜しんで、子供たちに「話して」と言ってもダメなんです。
職場体験、対話とつながり、ひとづくり、行政内の垣根を越えた取り組み、やりたいを一緒に実現できる、共に創れる、「つくる」。育まれるまち。
そんなまちに少しずつなってきました。
そうして取り組みを続けていくと、子供たちが学校の外で地域の人たちと活動をするようになりました。
今では、20全ての地区でそのような取り組みがでてきました。
それが続いていくと、子供たちが成長してどんどん地域の人たちとの活動が増えていくんです。
子供たちが地域で活動をしていく時に、それを受け入れる大人が地域にいることが大きな鍵になるということがわかりました。
すると、毎年の子供たちに実施するアンケートの結果が変わってきました。
改めて「子どもの育ちを支える地域の力」について考えてみます。
家庭が集まることで地域コミュニティとなり、そうして初めて学校が存在する。
子どもやコミュニティが無ければ学校は存在しえないのに、学校を中心に考えることは間違っているのではないでしょうか。
学校関係者は学校中心の活動ではなく、子どもやコミュニティを中心にした活動にしていくことが重要だと思います。
私は、なぜ、子どもの育ちに関わるのか?
「子ども達の為に大人が何かやろう」ではなく、「子ども達と一緒に大人も考えて、一緒に大人も何かやろう」プロセス、そして共につくる経験が大切だと思っているからです。
社会教育は学校教育と比べると一見無駄かもしれないけど、どちらも大事でそれが重なり編み目のようになり、社会を豊かにしていくと思います。
益田市で活動しているメンバーと一緒に考えた「コーディネーター的資質・価値観」を並べてみました。
会場の皆さん(そしてこの記事を読んでる皆さんも)。
自分にとって大切だな、共感できるなと思うものは何か比べてみてください。
質疑応答
Q. AARとは?
A. PDCAではない。人材育成でPDCAは失敗する事が多い。特にリフレクションがとても大切。小さく始めて、振り返りを重ねながらどんどん活動を大きくしてくのが良い。
Q. 益田市の地域包括支援センターはどんな活動をしている?
A. 地域のまちづくり団体や公民館と連携して活動し始めている。世代ターゲットはあまり絞らず多世代交流を図り、繋げている。
Q. カタリ場の対話で生まれた成果、カタリ場別のテーマ性はあるか?
A. ロールモデルを子ども達と繋げることが目的の活動。学校や地域の主体性を大事にしたいので「やりたかったらやっていいよ」というスタンスで進めた。なので、テーマ性も地域によってカタリ場の場は違う。
Q. カタリ場はどのような話題?
A. 縦軸と横軸、年齢、そして人生の浮き沈み、その人生グラフでライフヒストリーを語り合ってもらった。
Q. カタリ場と公民館の出会いの場作り、地域の人がカタリ場へ参加する仕掛けは?
A. 全ての小学校区に公民館があるのは那覇市との違いだが、基本的には公民館にお願いして、事前研修もする。社会教育は義理と人情。那覇市の場合は小学校区まちづくり協議会などにそういう仕組みがあっても良いかなと思った。
卒業生の発表
・ななほしてんとうむし会(中心市街地)
テーマ:ここに居たから助かった!防災に強い商店街ができるまで。
対象:沖映通り商店街
内容:沖映通りが、防災に強い商店街になるまでの長期計画を実施し、モデル事業にすることで全国に展開する。津波災害警戒区域にあること、土地勘に乏しい災害弱者が多いこと、自主防災組織が設立されていないこと、FM那覇があること、通り会の活動が盛んなこと、などを理由に沖映通りを対象に絞った。通り会の例会やイベントなどに参加しながら地域のことやそこでの課題を知った。それをもとに防災イベントの実施や避難ステッカーの作成など年間計画を策定。東京大学チャレンジ!!オープンガバナンス(COG)にてポスター展銀賞を獲得。5月には助成金への採択が決まった。
・チームAMMA(那覇西)
テーマ:在沖ネパール人学生と協働で作る災害に強いまちづくり!
対象:那覇西湾岸地域
内容:ネパール後での避難誘導支援と那覇市が避難所で提供する防災食をスパイス香るhotな一皿に変えるという取り組み。「災害時、在留外国人がどのようなことに困るのか」というアンケートを実施した結果、避難する時と避難所にいる時に課題があるということが見えてきた。そこから、ネパール後での災害時の情報発信や、避難時の生活を想定して防災食から防災を学べるような場づくりを行ってきた。COGでは連携体制賞を受賞、その後ネパール大使館に訪問し、9月にはネパールへの訪問予定も。
・たのしむぞ〜!06
テーマ:近所の公園が私のお庭プロジェクト
対象:小禄1丁目
内容:身を守るための「いかのおすし」。きちんと守る子供もいるが、非常時には知らない人にも声をかけて助けを求めてほしい。そのためには、「顔の見える関係」が必要。そこで、地域の公園を活かして「顔の見える関係性」づくりにつながる取り組みを企画。そんな中、子供の「公園にあるベンチをきれいに塗り直したい」という声がきっかけでペンキ塗りのプロジェクトが始動。 回数を重ねるごとに、少しずつ地域のピースが集まり始まる。今後も地域の人がやりたいことを実現しながら地域のつながりを作ることで「助けて」と言える未来を目指して取り組みを続けていく。
・いちゃりば真和志
テーマ:リアルドラクエ つなぐ31万人グループへの挑戦
対象:松川公園
内容:これまで「つながる」にこだわり様々な活動をしてきた。そのきっかけは、大学院時代のフィールドワーク。そこで実施したアンケートの結果は、「地域の人とつながりたいけどどうしたらいいのかわからない」という人がいることがわかった。そこで、31万人グループの実現に向けての一歩目として、松川公園でのバザールを企画。そのための取り組みとして、地道に公園での活動に参加。活動が実り始め、公園でのプレイパーク開催や、七夕まつりなどのイベントも実施予定。今後は、他の地域でも同様の活動が起き、その時に助けに行けるような仲間を探してくっつけていけるような役割を担っていく。
・ミネコヤ(首里チーム)
テーマ:あったらいいな♪こんな場所 夢の居場所づくりワークショップ
対象:石嶺町民会館
内容:地域に関わる人の寄りどころ、ふるさと(郷土愛)を育む。そのために、子供の居場所づくりを通した地域の憩いの場づくりをしていくという企画。大学院の中で、地域に出ていきみなさんのお話を聞かせていただいた。そこで、いろんな人のいろんな想いを聞いた。 その中で、自治会がない地域があったり、公園や広場がないということで、地域の人が集まれる場所ってどこにつくれるのか、ということを話し合った。その中で、活用されていない公民館があることを知り、そこで取り組みを行うことに。日常、非日常に関するイベントやワークショップをそれぞれ実施。一旦活動を終了する予定だったが、地域の方々からも継続を望む声をいただき、本格的に団体として資金調達もしながら活動を続けていくことに。ゆくゆくは、校区内外の多様な人と出会い、地域に関わる機会が選択できる石嶺小学校区になれるよう活動を継続。
トークセッション
石垣(ファシリテーター):まずはみなさんのお話を聞いて大畑さんはどう思われましたか?
大畑:一回で終わったりが地域活動あるあるだが、実際に何度もやって、気づきや出会いがあって、振り返って、周りに言っちゃってどんどん良い循環が生まれているなぁと思った。卒業後にこんなに活動が続いている大学院の取り組みは素晴らしいなと思った。
石垣:大学院受けてみての感想と、その後の活動をどういう気持ちで行っていますか?
加島(小禄チーム):那覇市職員として参加していた。改めて振り返ると本当に世代や立場を超えた繋がりが生まれ、どうしよう、とか、これしたいな、と思った時に顔が少しずつ思い浮かぶようになった。すごく参加して良かったと思う。
当山(那覇西チーム):働きながらなので、卒業できるかな?という不安もあったが、参加すればするほど楽しくなり、出会いもあり、地域へのアンションを通して、どんどんワクワクと面白さが増えていった。これからも活動を続けたいし、ネパールの学生とのコミュニケーションはとても楽しい。
神谷(首里チーム):実は大学院に参加したくて仕方なかった。地域へ関わりたくてもどうしていいか分からなかったり、忙しかったりとモヤモヤしていた。昨年度はついに受講生として参加でき、様々な地域を知る手法を学んだり、地域のイキイキした方にもたくさん出会えて、いいことばっかり。私は首里には住んでいないがみなさん快く受け入れてくれた。そんな不安を抱いている人でも大丈夫だと思う。
宮城:今回の発表も時間オーバーするくらい想いが乗っていた。これだけ想いが乗るには色んな「苦労」もあったと思う。その辺り聞きたい。
神谷:慣れない事や学び、今まで出会った事ない方々とのコミュニケーションなどは大変だった。でもチームで関係性ができていくと、愚痴を言いながら一緒に進めていくことができた。
当山:なんとなく決めた対象者や課題を運営サイドからビシバシ指摘を受け、悔しい思いも沢山したが、楽しさに変わっていった。素敵な先輩たちやチアーズの存在も有り難かった。東京でのCOGチャレンジも大人の修学旅行みたいで楽しかった。
加島:何回かイベントをやってきたが、メンバー全員素人の中で、飲食や物の販売など全て未経験で迷惑をかけてしまった人もいたが、不完全だったからこそ大学院のメンバーや地域の方などがアドバイス・助言をもらえたり、参画頂いたり広がりがあったと感じている。
石垣:せっかくなので大畑さんにもお聞きしてみたいです。みなさんの中で「立ち上げが大変だった」という悩みがあったと思いますが、何かコツとかアドバイスはありますか?
大畑さん:立ち上げの共感づくりや試行錯誤。立ち上げは楽しいと思う。それよりも続ける方が大変。団体になるとクローズになってしまう。続ける為にはそうならないようオープンにし続けるのが大事だと思う。
石垣:実はチアーズという仕組みがあり、卒業生や地域のキーパーソンがその役割をになっている。受講生の皆さんはチアーズについて思うことはありましたか?
加島:合宿の時のチアーズの皆さんの存在はとても助かった。「こんな地域にしたい!」はあるが具現化できずモヤモヤしてる中で、チアーズの方にアドバイスをいただきとても助かった。
当山:想いが溢れた時にチアーズの皆さんが初心に立ち戻らせてくれる助言もあったりした。立ち止まる機会をくれた事もチアーズや事務局の存在も大きかった。
神谷:チアーズには地域で実践しているメンバーもして、積極的に関わってくれる場面もあった。「そもそも大学院ってどうやって進めたらいいのか?」というところも、経験の中からアドバイスなどをいただいた。
質疑応答
登壇者に対して、参加者から質疑が投げられました。
Q. 住んでいないエリアで活動していた人もいたが、実際どんなプロセスでエリアなどを決定するのか?
A. まずは那覇市を6エリアに分かれてもらう。地域調査のタイミングで、エリアだけでなくテーマも決まって来る。その段階でチーム移動もOKとしている。(宮城)
Q. 話し合いが大切だと感じた。様々な意見が出ると思うが、メンバーの中でのまとめ役やリーダーなどどうやって様々な意見の折り合いをつけていったのか。
A. 首里チームのまとめ役は神谷が担当していた。最初から決まっていたというよりは活動の中で探り探り決まっていった。不必要かと言われるとそうではないので、だれかがそういう役割を担う必要はあるかと思う。(神谷)
A. 那覇西チームではそれぞれの強みを活かして役割分担していった。結論としては良いメンバーがいた。というのが結論かもしれないが、持ちつ持たれつで進んできている。(当山)
A. 小禄チームの場合は、大学院の受講期間中は役割分担はあったが、リーダーはいなかった。みんながリーダーだったかもしれない。ただ卒業後はリーダーの必要性を感じてリーダーっぽい人を置いた。(加島)
Q. 現状把握の際に、地域を知る為に、どういう期間、どういう作業、どんな人へリサーチをしたのか。
A. 小禄チームはデータソースを教えて頂き、それをもとに企画を練っていった。(加島)
A. 那覇西チームはネパール人当事者メンバーもいたし、当事者へのヒアリングやまちづくりを行なった。(当山)
A. 首里チームは校区カルテの活用や校区まち協へのヒアリング、歩く。(神谷)
Q. コーディネーターにとって大事だなと思う事は。
A. 笑顔で人との対話を重ねる。1度受け止める。ネットワーク。(神谷)
A. 助けてといえる仲間づくり。繋がり。気持ちに寄り添う。(当山)
A. 参加者ではなく参画者。関わりたい人をどうやって増やせるか、その仕組みを考え続けること。(加島)
最後に、今年度の講座の告知を行い、終了!
この記事を読んでワクワクした方、「自分も何かしたい!」と思った方!
ぜひ下記から2024年度なは市民協働大学院にお申し込みください!