9月1日、第3回講座を開催しました。
講師は宮道喜一氏(NPO法人まちなか研究所わくわく 代表理事/一般社団法人災害プラットフォームおきなわ)です。
テーマは「地域調査と分析・問題設定」。第2回の合宿で立てた調べる計画に沿って、この2週間で各チームが動いた成果を持ち寄り、そこから「問題」をどう立てるかに踏み込む回となりました。
この日のねらい
● 各チームの地域調査でわかったことを共有する
● 現状(調査結果)と問題(意識)を往復しながら、問題設定の解像度を高める
ワーク① 調査結果の確認と共有
講師は冒頭で「今日一番やりたいのは2つ目」と明言し、実際に講座の大半が現状と問題の往復に充てられました。前提として、本講座では次の3語を区別しています。
用語 | 定義 |
現状 | 現在の状態、実際に起こっていること(事実・事象) |
問題 | 「ありたい姿(ビジョン)」と「現状」のギャップ |
課題 | そのギャップを解消するために取り組むべきこと |
各チームがA3用紙に、調査で明らかになった「事実」を箇条書きで書き出し、2分ずつ報告しました。ルールは、思い込みではなく現場で触れたリアルを書くこと、合宿で受けた「斜に構える」フィードバックに調査で答えること、アイデアや解決策はこの段階では書かないことです。
各チームの報告(要旨)
小禄チーム
宇栄原小学校区周辺でまち歩き。小禄地区の「子どもの居場所」13か所のうち7〜8か所が宇栄原小学校周辺に集中。小禄児童館の利用は月平均80〜100人で親子での利用は減少傾向、夏休み時期は開館前の炎天下で児童を待たせざるを得ないことが課題。支援側からは「支援が必要なところに本当に届いているか」という声も出ました。
中心市街地チーム(中心市街地を楽しくし隊)
聞き取りとフィールドワークを実施。主要道路の交通量は20年間で減少(国道58号29%減、国際通り46%減)。一方で観光客数は過去最多の約943万人、モノレール朝ラッシュの混雑率は130〜140%。国際通りは歩行者の9割が観光客。街灯設置費用が自治会負担のため、暗い箇所の解消が進まないことも確認しました。
首里チーム
対象校区の2019〜2024年の事故件数は71件で、人口比ではやや多めです。日曜のまち歩きで、険しく狭い道、文化財として保護されている道、レンタカー・観光バスの多さと路上駐車、日曜のバス便の少なさ、一方通行の多さ(観光客の誤進入など)を確認しました。
新都心チーム(チーム水もの)
8月24日夕方にまち歩き。井戸を9か所確認し、うち5か所ほどに使用の形跡。掲示板の海抜表示は3〜4m、安謝小学校には防災マップ。避難先を知っている中学生に出会った一方、津波警報で逃げなかった住民にも出会いました。昔の海岸線を知る住民や、細道の奥の井戸を案内してくれたパン屋の店主にも話を聞いています。
真和志南チーム(男グミ)
直接のヒアリングは日程が合わず今後の予定で、今回はネット等での資料収集。ネット利用時間と社会関心度に相関があること、中学校のスマートフォン所持率が96%超であることを確認。小禄小学校の令和7年度児童アンケートでは、満足度や思いやりについて児童本人の肯定率が96%でした。
松川・大道チーム(大松クラブ)
アンケートの設計・配布を実施。小中学校の児童生徒と保護者、計約1,500名が対象で、9月10日回収予定のため結果は未着です。「公園が一つしかなく遊ぶ場がないのでは」という仮説のもと、遊び方・遊ぶ場、やりたいけれどできていないこと、保護者には「どんな居場所なら安心して行かせられるか」などを設問化しています。
真嘉比チーム(まかんみち)
令和3〜7年で那覇市全体の人口が約2%減のところ、真嘉比は5.7%増(約400名の流入)。年齢構成は14歳まで18.1%、15〜64歳67.6%、65歳以上14.3%。区画整理で街並みは整う一方、暗い道や、ひび割れ・爆裂が進んだ建物に入居者がいる状況も確認。井戸3か所や沖縄戦の弾痕が残る場所など、歴史の残る資源も見つかりました。
若狭チーム
出張や通信環境の事情でフィールドワークは未実施。松山などの繁華街を抱える地域特性から「夜間に子どもだけで過ごす家庭があるのではないか」という仮説を立て、「孤立を生まない地域をつくる」をテーマに設定しました。今後、交番での件数確認、児童館での過ごし方の把握、子ども・保護者へのアンケートを予定。デリケートなテーマのため、調査時の配慮もチーム内で議論しています。
講義 現状を「問題」に変換する
調査で得た事実をどう問題へ展開するか、この日の中心となる講義です。
その現状によって「具体的に誰が、どう痛みを伴って困っているのか」を特定して初めて「問題」になります。氷山モデルでいえば、海面上に見える現象は一部にすぎず、その下の構造にこそ問題が潜んでいる、という捉え方です。講義では次の例が示されました。
(1) 現状があること自体は、問題ではない
区分 | 内容 |
現状(事実) | 公園のベンチが撤去された |
問題(悪い例) | ベンチがないから高齢者が休めない → 現象の言い換えにすぎない |
問題(良い例) | ベンチがなくなったことで、毎日のスーパー帰りにレジの人と話し、ベンチで休むことを唯一の「生きがい」にしていた一人暮らしのおばあちゃんが、外出の動機を失い、社会から孤立してしまっている |
(2)「現状(事象)」と「問題(痛み)」を切り分ける
✕ 陥りがちな罠(ただの事象) | ◯ 絞り込まれた問題(誰のどんな痛みか) |
徒歩圏内に児童館や公園がない | 安全な遊び場がなく、親の送迎や自転車がない小学生が放課後に孤立している |
地域のコミュニティや繋がりが薄い | 新しく越してきた住民が、困った時に誰にも頼れず疎外感と不安を抱えている |
高齢化率が高く、防災意識が低い | 災害時にどこへ逃げればいいか分からず、情報から取り残されている高齢者の恐怖 |
道路が狭く、交通渋滞が起きている | 歩道のない道を毎日歩く小学生が、常に事故の危険に晒され恐怖を感じている |
(3) 問題設定を研ぎ澄ます「3つの絞り込み」
観点 | 内容 |
対象(Target) | 「子ども」「高齢者」という主語は禁止。「共働きで夜19時まで親が帰らず、スマホの充電が切れると途端に不安になる中学生のA君」まで絞り込む。 |
エリア(Area) | 「那覇市」や「〇〇校区」全体を対象にしない。物理的な制約やリアルな風景が見える単位まで狭める。 |
分野(Field) | 「貧困も、教育も、居場所も」と欲張ると誰も救えない。自分たちのリソースでアプローチできる、最も切実な分野を一つに絞る。 |
(4) 地域を知る・調べるための3つのアプローチ
● 既存のデータ・資料を確認する(人口・世帯構成・自治会加入率、各種地図、写真、年表・字誌、団体の総会資料など)→ 比べることで特徴が見えてくる
● ヒアリング(自治会、自主防災組織、子ども会、老人会、PTA、民生委員児童委員、地域包括支援センター、NPO、事業所など)→ 今ある取り組みに関わる人へ聴いてみる
● フィールドワーク(地域資源・ハザードの確認、高低差・坂道)→ 足元を知ることで地域の特性が見えてくる
ワーク② 問題設定の深掘り
「皆さんが持ち帰った事実は、誰の、どんな痛みを引き起こしているでしょうか?」(宮道講師)
大きすぎる問題は、誰も当事者になれません。「これなら私たちが(We)なんとかできるかもしれない」と思えるサイズまで切り出すことが求められました。
各チームを2つのグループに分け、「現状」と「問題」をA3用紙に書き出したうえで、互いに共有してチームとして一つの問題設定に絞り込みました。チェックポイントは、主語が「彼ら(They)」になっていないか、私たち自身の痛み(We)が含まれているか、の2点です。
各チームの報告(要旨)
真嘉比チーム(まかんみち)
人口増加に伴う騒音・排気ガス・ごみの増加、公園でボール遊びをすると注意される、情報が届きにくい、といった事象が挙がったものの「まだ現状のみ」と自己評価。今後、主語の解像度を高めます。
松川・大道チーム(大松クラブ)
「遊びが制限された公園しかなく、子どもが過ごせる場所が少ないのでは」という現状から議論した結果、困っているのは子ども本人ではなく、関わりの時間や物理的負担が増える低学年の保護者、目の届かない場所での事件・事故を不安に思う中学生の保護者ではないか、という「主語の転換」に至りました。
真和志南チーム(男グミ)
子どものネット利用時間の長さ、利用時間が長いほど社会への関心が薄まること、親世代の利用頻度の高さを現状として挙げ、そこから、関係性の希薄化により困った時に助け合えないこと、社会適応能力の低下、視力・学力の低下といった問題を設定しました。
新都心チーム(チーム水もの)
一方のグループは「昼間に家に一人でいる人」をペルソナに、情報を得る手段が少なく有事に逃げ遅れる問題を設定。もう一方は井戸を被災時の生活用水として活かせない問題を設定し、議論が噛み合いませんでした。地下水関連の指針(発災後3日までは1人1日3リットル、7日以降は20〜30リットル)から、想定していた時間軸が異なっていたことが判明。「まずは逃げて生き延びること」を優先し、前者に絞り込みました。
那覇西チーム
外国人コミュニティの子どもについて報告。学校に友達が多くいても孤立してしまう子がいること、日本語の習熟度の差に加え、アニメやテレビの話題の輪に入れずに離れていく状況が共有されました。その差が広がると差別にもつながるのではないか、という問題設定です。互いに相手を知る機会をつくる方向の意見も出ました。
小禄チーム
保護者の出勤の都合により、児童館の開館前に子どもだけで待つ状況が各所で見られること、そこから金銭の貸し借りやゲームの破損、不審者の出没といった問題が生じ得ることを挙げました。居場所については、情報が届いていない子がいる一方、周知しすぎると受け入れ能力を超えてしまう、という運営側の声も確認されています。
中心市街地チーム(中心市街地を楽しくし隊)
観光客・事業者・地域住民の三者から整理。観光客の約8割が素通りで楽しめていないのではないか、事業者は観光客増が収益につながっていないのではないか、住民はモノレールの混雑や国際通りの土産物店化で選択肢が減っているのではないか、と分析。誰の視点で深掘るかが次の課題です。
首里チーム
2グループで共通して挙がった「道が狭い」「険しい坂道が多い」という現状から、運転に不慣れな人が怖がって速度が落ち渋滞が起きること、通学路とする学生や住民が体力を使うため道を避け車に頼るようになることを問題に設定しました。
講師総括
最後に、問題設定から課題へ向かうための3つの問いが示されました。
● 主語の顔が浮かんでいるか。「地域」「子ども」「高齢者」という巨大な主語を禁止し、リサーチで出会った実在の〇〇さんのレベルまで絞り込む。
● 「ない」を問題にしていないか。施設や制度が「ない」こと自体ではなく、それがないことで日常のどんな場面でどう困るのかを言語化する。
● そこに「I / We」はあるか。自分たちのリソースを使ってでも解決したいと腹を括れる当事者性があるか。
あわせて、各チームの発表から抽出された5つの視点が共有されました。
視点 | 内容 |
① 主語の転換 | 「子ども」ではなく「親の悲鳴」ではないか。子どもの問題の裏には大人(親)の痛みが隠れている(松川・大道チームの気づきから)。 |
② 構造の把握 | ステークホルダーマップを描き、観光客・事業者・住民など関係者の影響関係を図解してボトルネックを可視化する(中心市街地チームの整理から)。 |
③ 課題の極小化 | 「スマホ依存」のような広いテーマは、「〇〇校区の〇〇エリア」と掛け合わせることで手の届く問題になる。 |
④ 痛みの特定 | 「初期の3日間か、7日以降の復旧期か」のように、時間軸・フェーズを特定して的を絞る(新都心チームの議論から)。 |
⑤ 先人の知恵 | ゼロから悩まず、児童館や子ども食堂など、すでに地域で動いている実践者に聴きに行く。次の調査アプローチとして推奨。 |
第4回は2026年9月15日(火)、第3回と同じ時間・同じ会場で開催します。内容は「企画づくり」。神戸から永田氏をゲストにお迎えし、当日夜には懇親会も予定しています(出欠アンケートはLINEで送付、回答期日は今週金曜日)。
企画づくりに入ると、せっかく立てた問題設定を見失いがちです。目的地がずれてしまうと、良い取り組みをしても何も解決されないことになります。今回の議論を手元に置いたまま進めていただければと思います。


















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